食べるということ、お菓子を通して心の豊かさということを考えてみたい。
お菓子の原材料はすべて農産物です。それらをつくった生産者がいます。
生産者の方々が大自然との協働作業でつくりあげたものがお菓子の原材料になります。
1つのショートケーキの背後には人と自然の壮大なドラマがあるのです。
ちょっと大袈裟に聞こえるかもしれませんが、例えば1つのショートケーキを考えた時、
そこに使われている生クリームは、北海道根釧地方のあの冷涼な気候の中で凛と育った牧草を
しっかり食べた健康な牛から搾乳された原乳から生まれたもので、
畜産家や乳業メーカーの日々の努力の賜物です。
そしてスポンジ生地の卵は、養鶏家の方が安心安全とおいしさを考え、
水にこだわり、エサにこだわり、研究を重ねた結果として届けられるものです。
そしてスポンジ生地の小麦粉は、北海道の大地でたくさんの太陽の光を浴び、雨の恵みを得て、
自然をたっぷり取り込んで育ったものです。スポンジ生地や生クリームに使われている砂糖も、
北海道の大地で大自然の恵みを吸収して元気に育った砂糖大根からつくられたものです。
小麦粉も砂糖も農家の方、製粉会社、製糖会社の方、たくさんの方の日々の努力の中から生まれています。
ショートケーキに最後に華を添える真っ赤な苺は、山川町でいちご農家の蔵本さんが
より安心でおいしい苺を求めて研究を重ねた結果できた逸品です。
シーズンには摘みたてを毎日届けてくださっています。
そうやってひとつひとつの原材料の生産者を現地に訪ね、気候、風土を肌で感じ、
苦労や想いを感じ、お菓子づくりをすることは、私自身、大自然とのつながり、
人とのつながりが感じられ、私の仕事を大変豊かなものにしてくれていると感じています。
私たちパティシエが素材それぞれのストーリーを感じ、自然の息吹を感じ、生産者の想いを感じ、
その上に私たちの想いをのせて1つのショートケーキをつくった時、それは単なる物としての
ショートケーキではなく、大自然からの贈り物であり、たくさんの人たちの想いの結晶です。
そんなことが感じられた時、ショートケーキはほんとうにおいしく、
豊かな気持ちになれるのではないでしょうか。そうであるならそういったことを正しく伝えることは
私たちの大切な仕事のひとつであると思います。その上で私たちがつくりたいものは
笑顔、共感、感動、信頼関係などです。
また旬の食材を通して季節の移り変わりを感じたり、私たちの工房、お店を訪れていただいて、
お菓子づくりを五感で感じていただいたり、ホスピタリティに触れていただくことを通して
自然とのつながり、人とのつながりを感じられることで心の豊かさを実感できるのではないでしょうか。
そしてこれからも自然とのつながり、人とのつながりを感じ、
豊かな食を育むためには環境に負荷をかけない持続可能な本来のより自然に近い農業を
応援していくことも私たちの大切な仕事であると考えています。
食品ロスの問題、環境の問題など様々な課題もありますが、食を通して豊かな心を育むために
私たちにできることはまだまだあります。
「心豊かな社会の実現に向けて」一歩一歩チャレンジしていきます。